【第3話】埋めたい距離

5/24
前へ
/24ページ
次へ
  ジャケットを脱いでラックに掛け、昨日と同じソファの一画に座った。 ふわり、キッチンの方から、いい匂いが漂ってくる。 「羽村ー、飯は何?」 つい尋ねた俺に、羽村は嫌々だということを隠しもせずに答える。 「……和食にしましたよ、お客様」 「ん、ご苦労」 やっぱり、日本酒には和食だよな。 嬉しくて笑う俺とは真逆に、引きつった笑みを浮かべる羽村が皿を運びながら答えた。 「お口に合うかわかりませんが、ね」 ……その顔は、どうなんだ。 わざとお客様扱いするあたり、必死に抵抗しているようにも見える。 まあ、こうなるように仕向けたのは俺だから、仕方ないか。 羽村に少しでも早く近付きたいと願う、俺の欲のせい、だもんな。 わかってはいても、やはり落胆してしまう。 まだまだ羽村と俺の距離は、遠い。 .
/24ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1339人が本棚に入れています
本棚に追加