【第3話】埋めたい距離

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  「日本酒は、グラス? それともお猪口?」 不意に呼びかけられて、顔を上げると羽村は食器棚の前で俺を振り返っていた。 動揺を悟られないよう、何でもない顔をして答える。 「……どっちでも」 ん? 待てよ、いま、グラスか猪口か、聞いたか? 一人暮らしの女の家で、日本酒用の器が揃ってるって、あんまりなくないか? 質問の意味を理解すると、驚きを込めて彼女を見た。 「っつーか選べんの? すげーね」 本当に何の裏もなく言った俺の言葉に、羽村は皮肉っぽく笑った。 「ええ、趣味ですから」 そう言って、食器棚に向き直る。 少しだけ思案して、グラスと猪口を1つずつ持って、戻ってきた。 .
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