【第5話】ひとりの夜

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  いつもの部屋、いつもの夜、いつもの空気。 普段通りなのに、何かが足りない。 それは、羽村が隣にいる空気。 2本目の缶ビールも空にした俺は、冷蔵庫へと歩み寄った。 ドアを開けると冷えた空気が足元に流れてくる。 いくつか並んだ酒の缶から適当に1本取り出して、また部屋へと戻る。 羽村の部屋より深い色味の多い部屋。 濃いブラウンを基調とした家具が並ぶ。 小物に色を使うのが好きな性分が表れているのか、部屋にもアクセントに深い赤や濃紺、グリーンなんかを効かせている。 自分の好きなものに囲まれた空間は、落ち着く。 だけどやっぱり物足りない。 アルコールを喉に流しながら、はあ、と大きく息を吐いた。 さっきから、溜息ばかりが溢れている。 溜息を吐くと幸せが逃げる、とか言うよな。 だったら俺の場合、猛ダッシュで逃げられているってことか。しかも現在進行形で。 って何どーでもいいこと考えてんだろーな。 いつも以上に早いペースで飲んでいた俺は、あっという間に3缶目も飲み干した。 ただ、一人で飲むビールがこんなに味気ないとは、思いもしなかった。 .
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