1701人が本棚に入れています
本棚に追加
……いきなり差し入れなんてしたもんだから、不審に思ったんだろうか。
取り繕うように俺は言葉を続けた。
「俺の方が終わったら酒おごれ」
俺の軽口に、羽村の顔は途端にいつも通りに戻る。
眉間にシワを寄せて「……嫌だよ……」と言い、溜息まで吐きながら、プルタブを開けて紅茶を飲み込んだ。
体から力が抜けていることを伝えるような息を吐き、微かに微笑む。
その一連の仕草を何だか穏やかな気持ちで見守っていたら、近寄ってきていた三浦さんが羽村に声をかけた。
「あら、美味しそう。どうしたのそれ」
「あ、三浦さん……長瀬がくれたんです、さっき」
どうやら羽村は三浦さんが近付いてきていたことに気づいていなかったようだ。
慌てて返事をした彼女の言葉を拾った三浦さんが、俺の方を向く。
「へえー、そうなんだ。長瀬くん、私にはないの?」
にっこり笑う先輩は、少しだけ意地悪な顔をしている。
俺は申し訳なさそうな笑みを浮かべて答えた。
.
最初のコメントを投稿しよう!