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宣言通りに羽村の家へ上がり込んだ俺の手土産は、ウイスキー。
わざとワインにしてやろうかとも考えたが、それを見て別の誰かを思い浮かべられるなんて冗談じゃないと思い直してやめた。
いつものように、羽村は食事の準備をしてくれていた。
そのことに何故かホッとする。
まだ終わらずにいられる、と実感できたからかもしれない。
もう定位置になりつつあるソファに座り、羽村と並んで乾杯する。
最初だけビールを飲むことにして、350mlを2人で分け合った。
冷えたビールを一気に飲み干すと、箸を取って並んだ料理に手をつける。
羽村は「簡単なヤツばっかりだけどね」と言うが、俺からしたら手が込んでいると思う。
以前、料理について素直に褒めたときも、彼女は『上手くないよ、ただ好きなだけ』と謙遜した。
理想のタイプは料理が上手い女、とか言うヤツの気持ちがいまになってわかる。
家に帰ってきてこんな風に食卓を囲めるのは、とても幸せなことだと気づいたから。
早々に2杯目、ウイスキーをソーダで割ったハイボールを飲んでいると、羽村が溜息を吐いた。
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