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この宮殿はウルルクの首都にあったはずだ。この映像ないったいなんなのだろう。カメラがぐらりと傾いた。 「あっ……」  思わず声が漏れてしまった。そこで笑っていたのは、今は亡き父・逆島靖雄(やすお)中将だった。宮殿をとりまくエウロペ・氾(はん)連合軍からの砲撃が絶え間なく響く。地を揺るがす爆発音のなかで、懐かしい父が歯を見せて笑っていた。 「断雄か。元気でやっているか。残念だが、もうウルルク王国はもう駄目(だめ)なようだ。最後までがんばってみるが、父さんもここで長い進駐官生活を終えるかもしれない。これはおまえにだけ残す最後のメッセージだ」  カーキ色の将官の制服はアイロンをかけたてのようにぴしっとしている。逆島中将はいくつものの勲章と階級章のついた胸元をゆるめた。タツオはディスプレイを両手で抱くようにかかえ、つぶやいていた。 「父さん、うちの家族みんなを残して、なんで死んだんだ」
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