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『面倒くせーだろ、それ』
そう言った俺に、『まーね』と答えた彼女は笑って言う。
『でも、その方が美味しく飲める気がするんだよね』
『あー、実際そうだろ。日本酒が旨い店ってそうだろーし』
『そうね。微妙な温度の方が美味しいお酒もあるし』
うん、と頷いた彼女は、悪戯っぽく笑った。
『あと、手間の分ね。美味しく感じるのよ』
『なるほどな』
『とはいえ、普段はやっぱり面倒だし。寒い日なんか特に早く飲みたいから、レンジ使っちゃうけどね』
『俺は家で湯煎なんてしたことねーよ』
『あははっ』
あの時笑った羽村の顔が、不意に過る。
あれは……羽村が見つけてきたどこかの店で、こんな関係になる前のこと、だっただろうか。
どうってことのない会話に明るく笑う彼女は、本当に楽しそうで。
何の裏もなく笑い合っていたあの頃を少し、懐かしく思う。
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