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「……遅い」
予報通りの、晴れやかな空の下。
約束していた駅前で、俺は腕組みをしながら羽村にそう言い放った。
彼女はいつものように頬を引き攣らせ、呆れたように俺を見ている。
「俺を待たせるとはいい身分だな」
続けて言うと、羽村はムッとしたように言い返してきた。
「……別に遅れてないでしょ。ほら、時間ぴったりだし」
「俺が遅いっつったら遅いんだよ。馬鹿」
「……」
溜息混じりの俺の態度に、言葉をなくした様子で顔を歪める羽村。
それは、いつも通りの彼女そのものだった。
昨日、帰り際の羽村の様子が気がかりだったが、心配は杞憂だったようだ。
俺はあらかじめ買っておいた切符を羽村の額に押し付けた。
何をされると思ったのか、身を竦めた羽村がそっと手を伸ばし、それを受け取る。
そこで初めて、正面から向き合った羽村の姿に、今度は俺の顔が歪んだ。
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