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「……僕は、決定したデザイン案の方が、より新ブランドのイメージを強めてくれると思いますよ」
固まっている場合じゃない、とばかりに俺は口を開いた。
もちろん、いつも通りに柔らかな笑みを浮かべることも忘れない。
ちらり、カメラマンの横で指示を出している羽村の方を窺う。
相手の視線もつられて移動し、それがまた俺の元へと戻ってきたのを確認してから、続ける。
「何より、ターゲットど真ん中の女性が作ったものですから。やはり女性にしかわからない感性もあるでしょうしね」
俺の視線はクライアントに向けられていた。
そう、この場で相手にするのは御園さんじゃない。
決定権を持つのはクライアントだ。
ここの考えさえブレなければ、何の問題もない。
狙い通り、彼らは俺の言葉に大きく頷いた。
「ですよね。もう撮影も始まってることだし」
「そうそう。それに決まった案は上の者が随分気に入ってるんですよねえ」
「それは嬉しいですね。羽村も喜びます」
ホッとしたように笑うクライアント。
にこやかに対応する俺。
御園さんが握っていた空気に、わずかな変化が見えた。
しかし。
「それでも」
遮ったのは、やはり彼女だった。
ぴたり、男たちの談笑が止まったのを見計らって、クライアントに向けて言う。
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