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「それ、いただけます?」
「え?」
「これ、です」
言うが早いか、彼女はするりと俺の手からさっき奪い取ったデザイン紙を抜き取った。
流れるように口元へと持っていき、ふふ、と笑う。
「せっかく綺麗なのに、折り目が付いちゃって……残念です」
そっと紙を滑る彼女の手。
事を荒立てるつもりもなかった俺は、苦笑いで返す。
「ああ……すみません、つい」
「いえ。……でも」
伏せていた目を上げた彼女は、小首を傾げて続けた。
「また、新しいのをいただけますか? 私、本当にこのデザイン、気に入っていて……個人的にとっておきたいんです」
何故だか潤んだ瞳と、艶のある唇。
儚げな笑みを浮かべて“お願い”してくる彼女は、完璧だった。
それはもう……男なら誰でも二つ返事で了承するだろう、なんて思う。
が、俺は違う。
御園さんの潤んだ瞳を真正面から受け止めながら、俺は言う。
「データはすでにお持ちですよね? わざわざこちらから送らなくても、そちらでご対応いただけると思いますよ」
にっこり、微笑みながらの台詞。
それは、端的に言うと、あっさりと断ったということになるのだが。
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