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俺の答えが想定外だったのか、一瞬、彼女の表情が揺れた。
しかし、それで諦めてくれるほど、この担当者様は殊勝な女でもなかったらしい。
「ええ。でも、弊社のプリンタは色が悪くて……どうしても綺麗なものが欲しいんです。お手数ですが、お願いできますか?」
重ねての依頼に、俺は内心溜息を吐いた。
鳳凰堂のプリンタの問題は知っていたからだ。
……早く直せよ、一流企業が。
心の中で悪態を吐きながら、仕方なく頷いた。
「……わかりました。また近いうちにお届けします」
「ありがとうございます」
ふわりと笑う御園さんは、少女のように声を弾ませた。
「ああ良かった、嬉しいです、本当に」
俺のデザインを大事そうに抱え、屈託なく微笑む彼女。
その行動に、表情に、悪意は何も感じられないのに……俺の胸に渦巻くもやもやは晴れない。
それはきっと、この裏側を想像してしまうからだろう。
最初の直感通りに、俺と同じタイプだとしたら……この笑顔の裏で、何を考えているかわかったもんじゃない。
もし、羽村に対する彼女の振る舞いさえなければ。
きっと、こんな些細なことにいちいち何も思わなかったことだろう。
まあ、だからといって、羽村の件がなかったら彼女に惹かれたかどうかについては…微妙、としか言ようがないが、な。
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