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それから数日後。
バタバタ忙しい日々を抜け、ようやく撮影の日がやって来た。
早朝から集まったスタッフたちとの事前打ち合わせを終え、それぞれの持ち場につく。
羽村がメインで撮影を仕切ることになるこの現場で、俺はクライアント対応を任されていた。
正直、ホッとしていた。
今日この日を乗り切れば、後は作業の時間にあてられる。
あの御園さんという厄介な担当との折衝も少なくなるだろう。
羽村も宮野も自分の仕事に集中できるようになるはずだ。
そしてそれは、俺も同じ。
自分の担当案件に注力できるようになる、その山場だと考えていた。
活気と緊張感が漂うスタジオに、羽村の声が響く。
「すみませーん! その背景、もう少し右にずらしてもらえますかー?」
「はーい!」
その指示を受けたスタッフの動きを確認した彼女は、すぐに宮野の元へ。
「ユリナちゃん、資料準備できてる?」
「はいっ!」
「ありがとう」
宮野を労いながら時計を確認した羽村は、小さく溜息を吐いた。
それもそうだろう、クライアントの到着が遅れている。
だいたい、撮影のスケジュールは結構シビアに組まれているものだ。
ほんの5分、10分の遅れが、後々響いてしまうことだって多い。
「ちょっと表見てくるね」
そう言って出ていった羽村を見送り、俺は宮野に近寄った。
資料を確認し、どんな風にクライアントに説明するか、頭の中で組み立てる。
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