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「ああーっ、なんか緊張しますぅ!」
朝からずっとそわそわした様子でいる宮野が隣で呟く。
俺は苦笑しながら彼女に笑いかけた。
「そっか、宮野は撮影は初めて?」
「見学は何度かさせてもらってるんですけどぉ……やっぱり違いますねぇ」
「なるほどね。でも大丈夫だよ、基本的には羽村が仕切るし」
宮野の仕事はおそらく、雑用的なことが多くなるだろう。
しかし担当として挨拶している以上、スタッフから何か尋ねられることもあるかもしれない。
「もし、わからないことがあったらすぐ聞いて。羽村が忙しそうだったら俺が対応するから」
「はいっ! 頑張りますっ!」
気合を入れ直すかのような仕草をした宮野が微笑ましい。
俺も最初はこんな風に、気を張っていたのかな、なんて思いながら「うん、頑張ろうね」と返していたら、出入り口から羽村の声が響いた。
「クライアント様入られまーす! 皆さん、集合お願いしまーす!」
はーい、という返事がスタジオ内の様々な場所から聞こえる。
全員が揃ったところで、羽村が間に立って全員の紹介をしていく。
何気なく、久しぶりに対面した御園さんの方をちらりと窺うと、目が合ってしまった。
彼女は瞬時にふわりと微笑み、軽い会釈をしてくれる。
無視するのもどうかと思い、会釈を返すとまたにっこり笑みを向けられる。
とても美しい笑みだ。化粧も髪も服装も完璧、申し分ない。
自分にだけ、こんな風に微笑まれたら、ころっと落ちる男も多いだろう。
……が。
どこか、もやっとした気持ちになるのは、羽村とのことを知っているからだろうか。
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