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「……それでは、本日はよろしくお願いいたします!」
「お願いします!」
全員の紹介と、今日の撮影についての説明等を終えた羽村が深く頭を下げる。
スタッフ全員でそれに応え、いよいよ撮影が始まった。
クライアントの男性二人は小西さんと藤井さんというらしい。
鳳凰堂の面子は御園さんと、営業の内藤さん、辻さんの三人だ。
俺の今日の仕事は、この五人の相手をすること。
適度に話しかけて場を盛り上げ、退屈させずに撮影の意図を伝える。
お互いを知り合う……つまりは内情なんかを探り合うような役割も担っている。
さっそくカメラマンの横で指示を始めた羽村を見て、俺は彼らに歩み寄った。
「こちらが本日の資料です。何かありましたらいつでも僕に申し付けてくださいね」
「ああ、ありがとうございます」
差し出した資料を内藤さんが受け取り、クライアントにも配ってくれた。
全員が資料に目を落とし始めた頃、内藤さんがそっと俺に近寄ってきた。
そして彼は俺を見て眉を下げ、小さな声で言う。
「先日はすみませんでした。お忙しいところ、無理を言いまして」
こっそり耳打ちしてきた内容に心当たりがなく、一瞬首を傾げそうになった。
が、すぐに思い当たる。おそらく……一案追加で依頼されたときのことだろう、と。
俺は頭を振って、微笑む。
「ああ、いえ、お気になさらないでください。必要ならそれに応えるのが僕たちの仕事ですから」
そう言うと、何故か内藤さんは「ほう」と目を見開いた。
……何か、おかしなことを言ったか?
なんて不思議に思っていると、彼は苦笑しながらその理由を教えてくれた。
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