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「いやあ、驚きました。依頼したときに羽村さんが同じようなことをおっしゃっていたのでね」
「羽村が……?」
「ええ」
大きく頷いた内藤さんは、頭を掻きながら「実は」と続ける。
「うちの者がなかなか……こう言ってはなんですが、失礼なことを言いましてね。にもかかわらず、羽村さんはにっこり笑って引き受けてくださったんですよ。いやあ、あのときは頭が下がりました」
「……そうだったんですか……」
「+Dさんは意識が高いんだなあと感心しましてね。今後も是非、お願いします」
「こちらこそ、どうぞよろしくお願いします」
内藤さんは朗らかな笑みを浮かべ、クライアントの元へ戻っていった。
俺は彼の言動から、一つの結論を導き出していた。
話自体は、すでに宮野から聞き出していたものだ。
しかし、それを社内の人間から聞くことと、鳳凰堂側から聞くことは、また別の意味を持つ。
内藤さんは羽村の話をしながら、顔を綻ばせていた。
好意的に受け取られていると見て間違いない。
どうやら羽村は、この案件で中心となって動いている営業には、しっかり認められているらしい。
……で、あれば、問題は。
俺はちらりと視線を移動させた。
その先にいるのは、資料を読む手を止め、じいっとカメラの方を見つめている女性。
少しだけ目を細めた彼女……御園さんが、何かを呟いた。
が、何を言ったかまではわからなかった。
その声を拾うには、距離が遠過ぎる。
口元の動きだけで読み取れるほどハッキリ動いてはいないのも理由だ。
その冷たい視線が羽村を刺していることには、気付いていても。
俺が聞き逃した彼女の台詞。
それは、「……目障りな女」だった。
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