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テストを数カット撮影し、羽村がクライアントを呼ぶ。
撮影データを表示させた画面を見てもらうためだ。
集まってきたクライアントや鳳凰堂の人間に説明しながら、羽村は尋ねる。
「いかがですか? もう少し、淡い光のパターンも撮る予定ですが」
彼女の声に、全員が画面を注視した。
中でも、食い入るように覗き込んでいたクライアントの小西さんが首をひねった。
「もう少し、商品を大きく見せた方が良いんじゃないですかね?」
来た、と思う。
おそらく羽村も同じことを考えているはずだ。
商品を目立たせたい。もっと大きくしてくれ。
クライアントからの要望で一番多いのが、これだからだ。
だが、それを鵜呑みにしてしまえば……全体のバランスが崩れ、結局何の意味もなさない。
羽村は「そうですね……」と小西さんの言葉を一旦引き取り、提案として返した。
「では、一度商品に寄ったものも撮ってみましょうか?」
「ええ」
「カメラ、お願いします」
「はい」
羽村の指示で、すぐに商品寄りのカットが画面に表示される。
ふむ、と唸ったのは内藤さんだった。
「これだとせっかくの世界感が薄れちゃいますねえ」
「そうですか?」
「うん、僕はさっきの方がイメージに合うと思いますよ」
内藤さんの力強い後押しもあり、最初に提案していた方のカットが採用されることになった。
一番ホッとしているのは羽村と宮野だろう。
「では、これで進めさせていただきますね」
「お願いします」
微笑みながら頷いたクライアントと共に、また撮影の邪魔にならない元の位置へと戻る。
第一関門突破、といったところだろうか。
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