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スタジオを一番後ろから眺めていると、ふと、御園さんがクライアントの元へ歩み寄っているのが目に入った。
何気なくそれを見ていると、彼女は手元の紙をクライアントへ見せている。
……何だ? さっきの資料にしては、紙のサイズが……、っ!
その紙の正体にハッとした俺は、思わずその場へ歩み寄った。
「あのっ……」
「あら、長瀬さん。ちょうど良かった!」
声をかけた俺に、即座に振り返ったのは御園さんだった。
花のような笑顔、そして弾むような声。
可憐な女性そのものを体現している彼女は、俺の腕をきゅっと握り、輪の中へと引き込む。
「このデザインは彼が作ってくださったんです。とても素敵ですよね」
「ああ、提案の時にも話題に上ってましたね」
「そうなんです! 私、これがすごく印象に残っていて……」
ふふ、と微笑む彼女に、クライアントも柔らかい笑みで応じている。
この場は彼女が握っているといっても過言ではないだろう。
俺はその手に握られた紙……そう、俺が作って没になったはずのデザイン案を信じられない気持ちで見つめていた。
御園さんは甘い溜息を漏らし、続ける。
「これが駅や街頭に貼られていたら、とっても素敵だと思うんですよね……! 女性なら絶対、一度は足を止めてしまうんじゃないかしら?」
「はは、御園さんはそのデザインを本当に気に入られてるんですね」
「ええ! 個人的に部屋に飾りたいくらいなんです」
「……お誉めにあずかり、光栄です」
耐えきれず、にっこり笑いかけてみた。
そうでもしないと頬が引き攣ってしまいそうだったからだ。
この場でこの女は、一体何をしようとしているんだ?
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