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「このデザインがお蔵入りしてしまうなんて、本当にもったなくて……」
言いながら、御園さんはつうっと、指先でデザイン案を撫でた。
細く長い指が妖艶な色彩が踊る紙を滑る。
俺は何も言えないまま、それを見守るしかなかった。
言い様のない感情が、胸の奥からじわりと忍び寄ってくるのを感じる。
……何を言う気だ、この、女は。
何度か見たはずの彼女の横顔、その一挙一動に、全員の視線が注がれていた。
「だってそうでしょう? 女性の私がこれだけ夢中になるんです。きっと、世の女性だって同じです。長瀬さんのデザインに惹かれるに決まってます。そう思いません?」
独り言のようにも思えるのは、静かでいて、柔らかな口調だからだろうか。
だが、俺にとってはそれすら恐ろしい。
誰も動かない、動けない。
御園さんの術中にハマっている、そうはっきり認識している俺でさえ、だ。
悲しげに伏せられた瞳に落ちる、長いまつげの影。
それが不意に薄くなった瞬間、彼女は顔を上げ、クライアントと俺に対して訴えかけた。
「私としては……今からでもこちらの方向にシフトした方がいいんじゃないかと思うんです」
そう言い切った御園さんの瞳には、強い光が宿っていた。
揺らがない、そう伝えている強い意志と共に。
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