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虚をつかれたからだ、俺は仮面を忘れ、思わず眉を寄せていた。
「……は?」
遠慮のない声が漏れる。
それくらい、衝撃的だった。
しかし、目の前の女は俺の変化にも気が付かない様子で続ける。
「ね? そう思いません? それに長瀬さんだって、その方が嬉しいでしょう?」
「……一体、何を……」
何を言ってるのか、わからない。
この女は、自分が何を言っているのか、わかっているのか?
そりゃ、自分のデザインが認められるのは嬉しいに決まってる。
が、今この状況で、その提案を喜ぶ馬鹿がどこにいる?
撮影は始まっている。
羽村が、宮野が必死になって作り上げた世界がそこに出来上がっている。
いまさらデザイン変更なんてことになったらどうなるか。
理解できないほど経験が浅いわけでもないだろう。
予測するまでもない。
待っているのは、破綻だ。
喉が渇いて気分が悪い。
意味不明な理論に惑わされて、次の一手が思いつかない。
戸惑いを隠せない俺の腕に、御園さんはにっこり微笑みながら触れてきた。
「長瀬さんのデザインの方が、私は素敵だと思うんです。絶対こちらの方が刺さります、ターゲットにもきっと……」
羽村不在で、そしてクライアントそっちのけで持論を展開するこの女に、正直……ぞっとした。
そう、それはもう、触れられているところからカラカラに乾いて乾涸びて、最後には崩れ落ちてしまいそうだと感じるほどに。
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