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思い出せ。羽村はあのとき、何て言った?
俺の手を払って、何を言ったんだ?
『長瀬には御園さんがいるじゃない』
そうだ、羽村はどうしてそう思ったんだ?
俺が一度だって、羽村にあの女の話をしたことがあったか?
あるわけがない。むしろあの女と羽村を近付けないように図っていたくらいだ。
俺から話すなんてことは絶対にない。
ふと、画面に映し出されるメールを読み直す。
まさか、と思うと同時に、背中を冷たいものが流れていくのを感じた。
……この女、か?
この女は……俺に媚びるだけじゃ飽きたらず、まだ羽村への攻撃も続けていたのか?
相談と称して頻繁に入る連絡や、俺にだけ送られるメール、何度か受けた電話……
これまでの様々な御園さんの行動が頭を過る。
すれ違う連絡事項に関しては、大した内容でもなかったことから、羽村も俺も放置していた。
わざわざ水を差して揉め事を起こす必要もないだろうと思っていたからだ。
羽村も『困ったね』くらいの苦笑いで、流していたはずだ。
逐一入る修正項目に疑問を抱き、何か手伝えることはないかと聞いたときだって彼女は『大丈夫』としか言わなかった。
あれがすべて、羽村の強がりだったとしたら。
いや、まさか、でも、そんな……
否定と肯定を繰り返し、思考の線がこんがらがっていく。
たまらなくなった俺は席を立った。向かう先は、情報提供者の元だ。
「宮野、ちょっといい?」
「はいっ?」
「休憩室、行こう」
宮野の隣に座る高井の視線が気にはなったが、それに構っている暇はない。
不思議そうにしている宮野を連れて、休憩室へと急いだ。
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