【第20話】決別と、そして

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  ちゅ、なんていう可愛らしい音を残して、名残惜しく彼女の顔から離れる。 と、それまで固まっていた羽村がバッと慌ててその手で頬を覆った。 「ちょっ……! ここ、会社っ……!」 「誰もいねーよ、ばーか」 真っ赤に頬を染めながらも俺を咎める羽村。 その焦ったような様子すら、可愛くて愛おしい。 それは、以前のような、行為に対しての嫌がる素振りではなく。 単純に、職場の真下であるこの場でしたことに対する抗議のように感じた。 拒否されなかった。 そのことがまた、喜びを増幅させる。 堪えきれない笑みを誤摩化すようにからかいの言葉を投げたが、羽村はまだ真っ赤になったままだ。 反応が素直過ぎて、もう、可愛いしか出てこない。 手で隠された頬の奥に揺れるピアスに手を伸ばし、それを揺らした。 「やっぱ、似合うな、これ」 そう言ってやっても、羽村は固まったようにその場に立ち尽くしたままで。 仄かに熱を持った瞳を見開いて、俺をじっと見つめている。 ……あーもう、このまま手を引いて抱き込んで、かっ攫ってやりたい、のに。 一度社に戻らなければならない自分の状況がもどかしい。 これ以上こんな風に向き合ってたら、俺の方がどうにかなってしまいそうだ。 くるり、踵を返してエレベーターへと足を進める。 ……と、後ろから靴音と、焦ったような声が飛んできた。 .
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