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ちゅ、なんていう可愛らしい音を残して、名残惜しく彼女の顔から離れる。
と、それまで固まっていた羽村がバッと慌ててその手で頬を覆った。
「ちょっ……! ここ、会社っ……!」
「誰もいねーよ、ばーか」
真っ赤に頬を染めながらも俺を咎める羽村。
その焦ったような様子すら、可愛くて愛おしい。
それは、以前のような、行為に対しての嫌がる素振りではなく。
単純に、職場の真下であるこの場でしたことに対する抗議のように感じた。
拒否されなかった。
そのことがまた、喜びを増幅させる。
堪えきれない笑みを誤摩化すようにからかいの言葉を投げたが、羽村はまだ真っ赤になったままだ。
反応が素直過ぎて、もう、可愛いしか出てこない。
手で隠された頬の奥に揺れるピアスに手を伸ばし、それを揺らした。
「やっぱ、似合うな、これ」
そう言ってやっても、羽村は固まったようにその場に立ち尽くしたままで。
仄かに熱を持った瞳を見開いて、俺をじっと見つめている。
……あーもう、このまま手を引いて抱き込んで、かっ攫ってやりたい、のに。
一度社に戻らなければならない自分の状況がもどかしい。
これ以上こんな風に向き合ってたら、俺の方がどうにかなってしまいそうだ。
くるり、踵を返してエレベーターへと足を進める。
……と、後ろから靴音と、焦ったような声が飛んできた。
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