1267人が本棚に入れています
本棚に追加
ふと、羽村がぐっと唇を噛みしめた。
和やかに微笑み合っていたはずなのに、どうしたのかと思っていると、彼女はくっと顎を上げて俺をまっすぐ見つめてくる。
「……長瀬」
「ん?」
呼びかけられた声は、わずかに緊張を帯びていた。
向けられた視線に含まれた熱に、逸らすこともできない。
いや、逸らそうなんて思いはしなかった。
羽村とこうして目を合わせて、正面から顔を突き合わせているのは、いつぶりだろう。
きっとこれまではずっと普通にしていたこと。
だけどここ最近は全く、なかったこと。
こんなにも……大事にしたいことなんだと実感していると、羽村が一瞬顔を歪ませてから、頭を下げた。
「この間……、暴言吐いて、ごめん。八つ当たりだった。本当に、ごめんなさい」
.
最初のコメントを投稿しよう!