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戻った会社で佐川さんへの報告を終えると、俺は高井と宮野の元へ向かった。
昨日のことを詫び、感謝の言葉を告げるためだ。
しかし二人は揃って首を横に振った。
「澪先輩の方も問題解決したし、長瀬さんの撮影も無事終わって良かったですぅ!」
「お疲れさまでした。疲れてるでしょうし、今日は早めにあがった方がいいですよ」
なんて労ってくれる。
本当に、いい後輩だと思う。
「ありがとう。そうさせてもらうよ」と言い残し、俺は席へ戻った。
逸る気持ちを抑えながら残務を処理し、足早に会社を出る。
頬を刺す冷たい風も、気にならない。
意識はもう、羽村の家にしか向いていなかった。
以前、羽村とばったり会った酒屋の前を通る時。
そうだ、土産……という思いをめぐらせた瞬間、ハッと気付く。
何を飲みたいか、何を作るつもりか、聞くのを忘れていたことに。
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