【第21話】取り戻した距離、踏み込めない溝

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  喜びに浸る間もなく、羽村がグラスを手に戻ってきた。 にやける顔を抑えようと眉間に力を入れると、自然と睨むような形になってしまう。 「おせーよ。料理が冷えるだろ」 「はいはい、ごめんなさいね」 噛み殺しきれない笑みを何とかしようとして、随分不遜な態度になってしまった。 が、羽村は気にした様子もなく、大げさな溜息を落としてくる。 ……ま、こういう方が俺達らしい、か。 一人納得して、彼女から受け取ったグラスにビールを注ぐ。 綺麗に分かれた泡と液体に満足しながら片方を羽村に手渡した。 「乾杯」 目と目を合わせた互いの顔には、軽い笑みが浮かんでいる。 カチン、と遠慮がちに響いたグラスの音で、羽村とこれまで幾度も繰り返してきた、いつも通りの夜が動き出した。 .
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