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喜びに浸る間もなく、羽村がグラスを手に戻ってきた。
にやける顔を抑えようと眉間に力を入れると、自然と睨むような形になってしまう。
「おせーよ。料理が冷えるだろ」
「はいはい、ごめんなさいね」
噛み殺しきれない笑みを何とかしようとして、随分不遜な態度になってしまった。
が、羽村は気にした様子もなく、大げさな溜息を落としてくる。
……ま、こういう方が俺達らしい、か。
一人納得して、彼女から受け取ったグラスにビールを注ぐ。
綺麗に分かれた泡と液体に満足しながら片方を羽村に手渡した。
「乾杯」
目と目を合わせた互いの顔には、軽い笑みが浮かんでいる。
カチン、と遠慮がちに響いたグラスの音で、羽村とこれまで幾度も繰り返してきた、いつも通りの夜が動き出した。
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