乙川集落

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そうして林道を更に進んでいくと、一件の納屋のようなものが建って いた。 江戸時代の倉を思わせる白壁の建物で、屋根はぽつぽつと瓦が欠けて いるのにその壁は新築同然に真っ白なのが、妙にアンバランスだっ た。 そしてそこに、人がいた。 40か50ぐらいの男なのだが、背中が膨れ上がり、腰が海老のよう に折れ曲がったいわゆる「せむし」であって、落ちくぼんだ目でじっ とこちらを睨みつけてくる。 そしてこちらが近づくと、その筋肉はついているが疱瘡だらけの手を 振って、「アア、アア!」と憎々しげに叫んできた。 どうも「出て行け」と言ってる風だった。 だから一旦引き返さざるを得なかったのだが、そんなことで諦めるよ うな人間ではない。 日を改め時間を変え、何度か足を運ぶ内に、運良くそのせむしがいな い機会に巡り合うことができた。
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