第1章

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田舎とも都会ともどちらとも言い難く、その中間に位置するだろう街で一人の少年が産声をあげた。その赤ん坊には、この世に生をうけたときから額には小さなしこりのような塊があった。 そのしこりは、指三本ばかり右眉の右斜め上、左眉の左斜め上にあった。額から軽く角がはえているようなイメージだ。ただ、小さい頃は特に目立つものでもなかったから、両親もさほどそれを気にはしなかった。 その赤ん坊の両親は、共働きではなく、母は専業主婦、父は普通の会社員。父は、飲み会や残業などで遅くなることはあったものの基本的には、夜の早い時間に帰宅し、土日も休みで一般的な良い父親である。もちろん、専業主婦の母も同様に一般的な良い母親である。ただ、両親にはひとつ気になる点があった。自分たちの息子に関してである。 「ねぇ、あなた?」 「なんだい?」 「あの子の額、左右対象にあるでしょ? あなた、気にしたことないの?」 「ああ。気にしてはいるけど、定期検診とか健康診断、お前、連れていっているだろ?それで、何か言われたことある?」 「ううん。ないわ。でも、前と比べて大きくなっている気がしない?」 「たしかに昔と比べたら、成長するさ。赤ちゃんの頃から身長も伸びやしない、体重も変わらない、髪も伸びない。そんな人間いるかぁ? 人間の成長は、産まれたその瞬間から老化と言っている人だって言っているくらいだぞ?」 ここで、「はぁ。」とため息をつき、母が言った。 「私が言っているのは、あの子の額にあるしこりの話よ。何でそういう話になるの?」 「ああ。しこりね。ふふ。分かっていたさ。まあ、深刻な話みたいになっているから、緊張和らげようとしただけだよ。しこりの話ね。しこりしこり。」 ほんとは父は、話を途中どういうわけか勘違いかてしまったときはこのように論点をぼかし、そのあとで修正していく性格である。母にはその性格を読まれているとは知らない当の本人はもちろん、いい笑い者にされていることなど知らない。母の虫の居所が悪いときは、それが元で喧嘩になってしまうこともしばしばだが、深刻には至らない。 「あなた、わかったから。とりあえず、話を戻すわよ? 検診とかではたしかに異常ないけど、あの子も来年から幼稚園だから、そのまえに一度、ちゃんとしこりの検査してもらったほうが良くない?」
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