第1章

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慎一は、哲男先生の前に立った。哲男先生は、鬼に言った。 「鬼、見ておけよ。俺はいじめがだいっきらいなんだ。」 そう言うと、哲男先生は思いきり、慎一のお腹をめがけて拳をめり込ませた。1発、2発、3発とそれがめり込むたびに慎一の体は振動で揺れた。でも、哲男先生の制裁は止まない。拳、蹴り、膝、肘、小学3年生にここまでやるのかというぐらい制裁を加えた。慎一は、泣きながら苦悶の表情を浮かべ、もはや嗚咽すら聞こえないぐらい悶絶している。 「心配するな、慎一。死にはしないよ。まあ、次、いじめなんてしたら本当に殺るけどな。」 その言葉に鬼は高揚した。哲男先生の、正義感にではない。哲男先生の偽りのない言葉にだ。哲男先生の目をみれば分かった。哲男先生も思っている。 (殺したいと…) それが分かったとき、哲男先生も鬼と同じ気持ちだということを感じた。鬼は、哲男先生を同志のようにすら思えたぐらいだ。 「鬼、次はお前がやれ。慎一は十分だから、お前は、お前が、一番憎んでいる徹夜をやれ。」 鬼はドキドキした。喧嘩なんてしたことがない。でも、哲男先生をみて、鬼は自分が強くなれた気がした。もちろん、肉体的にではなく、精神的にである。そして、徹夜へ向かって鬼はおもいきり走り出した。
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