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一方、その頃の大五郎。大五郎は、木の影に隠れて、追ってきたまさるを見ていた。
「あんのガキ! どこ行きやがった!」
なかなか見つからない大五郎にまさるは、苛立ちを隠せない。大五郎は、ドキドキしながら、木の影でまさるの様子をうかがう。
大五郎は、木の影に隠れておけばおそらく、いまはまだ、まさるに見つかる心配はないだろうと思った。まさるの方からこちらがわは見えていないようだった。しかし、大五郎のところからはしっかりまさるの動き、声はよく見えるし、よく聞こえる。
ただ、気をつけなければならないのは、音である。おそらく、相手側からよく見えないのは光の加減。まさるのとこは月明かりがあるが、大五郎のところはちょうど月明かりが遮られている。それで、大五郎のところは、おそらくまさるから見えないのだろう。
しかし、音に関しては別だ。まさるの会話、正確には独り言であるが、それが聞こえるなら、大五郎が何かしらの音を立ててしまった場合、まさるに聞こえてしまう。それだけに物音を立てないように気をつけなければならない。
大五郎のいるところは木の影。そして、季節は夏。さらに夏休み真っ只中。なので、とても虫が多い。その中でも多いのは蚊である。
大五郎は、蚊にさされまくっていた。手でどうにか蚊を追い払うものの、あくまで最小限に抑えることできるだけで、結局は蚊にどこかしら刺されてしまう。その度、ポケットにいれておいたムヒを塗り、どうにかかゆみを抑えている。
だが、かゆみは抑えることができても、蚊の飛ぶのを抑えること不可能だった。むしろ、蚊はどんどん増えている感じがした。大五郎は、我慢の限界だった。さっきより大きく手をふり、蚊を追い払った。そのとき、大五郎自身も気付いたが、ガサガサッと音を立ててしまった。大五郎は、すぐに手で蚊を追い払うのをやめ、まさるの方向をみた。
まさるはじっとこちらを見ている。見えているはずがないと大五郎は思いたかった。しかし、元々、暗闇のなかで物を認識する能力が高いと思われる謎の村の住民。そのなかの一人であるまさる。大五郎が立てた物音により、大五郎の隠れ場所の目星がついたら、その場所を見て、大五郎の姿を認識するのは、予想以上に早かった。
まさるは、じっとこちらを見ている。大五郎は、まさるから見えていないことを祈っている。その大五郎を見て、まさるはニンマリ笑った。
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