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大五郎は、木の影から出て、必死で逃げる。後ろを振り返ると、まさるが走って追いかけてくる。
「待て、ガキンチョ!!」
まさるがどんどん背後に迫ってきているのが分かる。大五郎は、もう振り返っているヒマなどなかった。
「待てっ!!」
その声と同時に、大五郎の背負っているリュックにまさるの手が触れてくるのを感じた。大五郎は、それを感じると同時に捕まったらどうなるか分からないという恐怖心が襲ってきた。
大五郎はその恐怖心で走っているスピードをさらに上げた。恐怖心から火事場の馬鹿力が出たのである。どうにかその火事場の馬鹿力のおかげで、まさるが触れた大五郎のリュックに触れた手を払うことができた。
まさるが大五郎のリュックに触れた手は軽く指先でつかまえる程度だったのは幸運だった。しっかりとリュックを大の大人がつかまえたら、大五郎がどんなに振り払おうと振り払えないからだ。
大五郎は、このまま逃げ切れないだろうことは分かっていた。なので、スピードを緩めることになるが、あることをやろうと考えた。
まさるも大五郎と同じで必死に大五郎を捕まえようと走っている。一度は、大五郎のリュックを軽くつかまえたものの、その瞬間に大五郎の走るスピードが上がったので、離してしまった。そのこともあり、まさるはさらに苛立っていた。そのとき、いきなり大五郎の姿が視界から消えたと思うと、まさるの目の前には地面が迫り、転んだ。
(何が起きた?)
まさるは急なできごとに驚いた。
大五郎は、このままではまさるにつかまると思い、あることをした。相手が全速力で近づいてきたのを見計り、自分の身をかがめたのである。つまり、しゃがんだのだ。
単純な手ではあるが、思った以上に効果的だった。大五郎の計算は的中し、まさるは前のめりになり、ダイナミックに転倒したのだ。まさるは転んだのが痛いというより、何が起こったのか分からない様子だった。
(いまだ!!)
大五郎は迷わず、まさるが転倒している間しか差をつけるチャンスはないと思い、しゃがんだ体をもとに戻し、再び逃げた。
(あの、ガキンチョ!! ぶっ殺してやるべ!!!)
ようやく、自分が大五郎の策にかかり、転倒したことに気づき、体勢を整えた。少し痛むが、走ることには支障がない傷であることを確認すると、背中が遠ざかった大五郎を視界にとらえ、まさるは再び走り出した。
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