第1章

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大五郎はだいぶ息が上がり、体力の限界に近づいていた。 (こ、ここまで来たら、だ、大丈夫かな?) そう思い、その場に座り込んだ。そして、後ろを向くと、まだ距離はあるが、まさるが走ってくる。 (う、うそ! あんなに派手に転んだのにもう起き上がって追いかけてくるなんてー。) 大五郎は、捕まるわけにはいかないと思い、全力で走っているが、もうさっきまでのように足がついてこない。自分では、動かしているつもりでも、実際にはあまり動いてなく、そして、何よりスピードが落ちている。 それに比べ、怒りに満ちたまさるももちろん大五郎と同じぐらい疲れている。しかも、大五郎と比べると明らかに運動不足である。しかし、疲れよりも怒りが優先し、まさるに関しては、体が思った以上に速く動く。 「おーい。待ってろよ、ガキンチョ! 観念せーや!」 どんどん、どんどん、まさるが大五郎へと迫っていく。そして、大五郎の背中が間近に迫ると、またもや大五郎がまさるの視界から消えた。 「同じ手食うかよ、バーカ。」 そう言うと、まさるも急ブレーキをかけ、大五郎と同じようにしゃがみこみ、大五郎を仰向けにし、その上に乗り掛かった。 「ガキンチョ、どうなるかわかってるべ?」 まさるがそう言った瞬間、まさるは目に激痛が走り、後ろにのけぞった。その隙に大五郎は、馬乗りになられた体をおもいきり持ち上げ、まさるを吹き飛ばすことに成功した。 (や、やった! 成功したぞ!!) 大五郎は、どんどん後ろに迫ってくるまさるにつかまるのは分かっていた。そう覚悟せざるをえないぐらい、体力を消耗していた。そのとき、大五郎はつかまって殺られてしまうのなら、最後の悪あがきをしようと考えた。 大五郎は、自分がさっきみたいにしゃがみこんでも、まさるはもう引っ掛からないだろうと思っていた。 そのあとは賭けであったが、大五郎の予想通り、まさるは大五郎に馬乗りになった。ほんとに一か八かの賭けであった。 まさるが馬乗りになっても、大五郎は自分の攻撃がかわされるかもしれないと覚悟しながら、この作戦を立てたときから、手に握りしめたあるものを使った。 大五郎は右手に握りしめたものを思いきり、まさるの右目、左目に命中させた。そう。大五郎がもっていたのは、ムヒである。そのムヒを見事、まさるの目に塗ることに成功したのだー。
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