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「ガキぃ! 殺しちゃるぞ! 絶対、殺しちゃる!!」
大五郎はそう大声で叫ぶまさるを尻目に、また全速力で逃げた。
まさるは、幸いにも眼球には直接ムヒは入らなかったものの、まぶたや目頭、その一帯をムヒで塗られ、激痛に苦しんだ。メンソール入りではない薬を目に塗られただけでも、目が開かないほど、きついときがあるにも関わらず、まさるが目に塗られたのは通常、目には使用しないムヒを塗られた上に、そのムヒがメンソール入りとあってはたまったものではない。
失明や後遺症は残らないにせよ、その激痛を経験したことがある人なら分かるだろうが、形容しがたい痛みであるのは間違いないと断言できる。
まさるは、まばたきするたびに目に激痛が走る。そして、まさるは、そのたびに大声を上げた。
「まさる! 大丈夫かぇ!!」
まさるは、いま目が開かない状態だが、声で誰なのかは判断できた。
「か、母ちゃん! なんで、ここに!?」
「おみゃーの叫び声やら大声やら聞いてのぉ。ようやく探したんじゃ。 あのガキンチョにやられたんか?」
「情けないけど、そうじゃ。」
「ガキンチョだからって、まさる、甘くみたのぉ。それともあのガキンチョが一枚上手だったんかい?」
「いや。ちがうけぇ。油断したんじゃ。今度は確実に捕まえるけぇ。」
まさるの表情は屈辱による怒りが燃えていた。そして、激痛にこらえ、まばたきをするうちにどうにか目はみえるようになってきた。
「母ちゃん、もう大丈夫じゃ。はよう、行かんとあのガキンチョ、村から逃げちまう。」
まさるがそう言うと、老婆、つまりまさるのお母さんはニヤリとし、こう呟いた。
「それは無理じゃ。あのガキンチョ、いやあのガキどもはこの村から逃がしてはならん。ワシがすでに村のもんに知らせて、村の入り口は封鎖しておるよ。もう、あのガキどもに逃げ場はないんじゃ。」
それを聞き、まさるはニンマリと笑い、冷静さを取り戻したようだった。
「それなら、安心じゃ。あのガキンチョを捕まえるのを楽しむとするけ。そんで、捕まえたあと、どうするか決めるばい。そんで、ええな、母ちゃん?」
「最初いったじゃろ。もう、お主らの時代じゃけ。好きにするとええ。煮るなり焼くなり、捌くなり。」
それを聞くとまさるは満足したように、母親に笑みを浮かべ、大五郎を探すべくその足を動かしはじめた。
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