いらない

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担がれたまま連れて行かれたのは建物の二階。 そこに置いてあるパイプベッドの上に座らされた。 「すませんね、うちの春日が。アイツ、一回わがまま言い始めたら聞かなくって」 「…悪いだなんて、思ってない癖に」 「あーあ。俺まで嫌われちゃいましたか…」 たいして残念そうでもない口ぶりで言う田代だがザワとらしい。 簡素な造りに古びた壁紙、カーテンのない窓。 ベッドと机はあるにしろ、とてもじゃないが春日の部屋…とは何故か思えない。 ならここは何処だろう? きょろきょろと見渡していると、俺の興味に気付いたのか壁に背をかけている彼が言う。 「やっぱり此処が気になりますか?」 「そりゃ、まぁ…」 「俺も営業してた時のことは知らないんだけど、春日がお兄さんと初めて顔合わせした場所だそうです」 「な、何…?」 「まー、いいから。 俺も春日から聞いた話なんで」 彼は先のことなんか聞いてもいないのに、まるで昔を懐かしむかのような口調で話し始めた… 二人がまだ幼い時の話。 春日の父親が再婚した相手が、菊池 雅之の母親。 ただよくある話だという。連れ子をうまく受け入れられなかったなんて…。 「どっちもα婚なんてやってる珍しい家系ですからね。特に父親は、成長すればどっちの子が優秀な遺伝子かなんて嫌でも思い知らされます。 それでもーーーまぁ妥協したんでしょうね」 けど溺愛してる息子の春日が、兄である雅之に執着した。 血の繋がりのない兄弟。 α婚の家系… 例え義理であっても、何かがあれば大問題だ。故に父親は、春日に雅之という人間は格下のαだと教育した。 「唯一の理解者になれるはずだった母親すら彼を見放したせいで、お兄さんの方は少しずつ壊れてしまったようです。 けど、あの人は全てを1人で乗り越えてしまった」 「………」 散々格下だと冷たくあしらった兄に完膚なきまでに実力で打ちのめされた。 父親はそれで春日を見放したりはしなかったが、自分の価値観が覆された時 春日はーーーー、歓喜した。 自分がどう頑張っても敵わない人間がいる。 目の前の田代も嬉しそうに笑う。 そして、この店が潰れたことを知った春日は、父親に頼みこんで自分の所有物にしたという 「義理の息子に使う金はないくせに、春日のちょっとした我儘に大金を出す父親って凄いですよね? いくら金持ちだからって、さすがの俺もドン引き」
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