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---愛されなくて、狂った兄弟。
最初は、雅之も被害者だったのかもしれない。それも大人の勝手で…。
けど、望んでいない暴力を与えられる苦しみを知っていながら、俺に平気でそれをするなら…彼も義理の父親達となんら変わらない。
「……なんで、そんな話、俺に…」
「強いて言うなら俺の優しさですかね?あの兄弟には関わらないほうがいいですよーって」
関わらないほうがいいのは自分が一番わかっている。
それが出来ないのだから仕方がないだろ。
「歩さんが一番かわいそうなの、分かってるんですが、俺じゃどうにもできないし…。あんな二人のゴタゴタに巻き込まれて、たまんないでしょ?」
「…なら、逃がしてよ…」
"あの人"とはもう戻れないと分かっているけど、このまま菊池の傍にいるくらいなら一人がマシだって、誰もが思うはずだ。
(なんで、こんな目に遭わなくちゃいけないんだよ…)
うつむいていると、ずっと我慢していた感情がジワッと涙腺を熱くする。
「こんな地味なのに、なぜ執着されるでしょうか?やっぱりΩとするのは」
「―うるさいっ!」
睨みつけるよう彼をみると、驚いたような困惑したようなそぶりを見せた。
「まいったな…そんな目されると、別の意味で虐めたくなるんですけど」
「――、は!?」
「アナタは自分のこと、なんにも分かってない。そういう目…めっちゃイイなぁって、ずっと思ってました」
"ずっと"ってなんだよ。
会うのは初めてのはずなのに…。
じりじりと近寄ってくる彼に、恐怖から嫌な汗が背中を伝う。
「俺は、春日の命令で雅之さんの部屋に出入りしてる人間を、たまに監視してましたから。…歩さんの泣き顔だって、もう何回も見てますよ。
だから、この"役目"を皆んなから譲ってもらいました」
その目の色が狂気に満ちていて、ぞっと背筋が凍る。
ーーーー最悪だ。
俺は馬鹿だ。彼のいうことなんて、全部聞き流せばよかっただけなのに。
「ポジティブに考えてくださいよ。他の野郎にヤられたら、もう飽きられて執着されなくなるかもですよ?春日も大好きなお兄ちゃんと一緒にいられるようになって、歩さんも晴れて自由の身」
嬉々として笑っている田代だが
何もわかっちゃいない…。
「俺はβだから、妊娠率も低いと思いますので」
――――優しくするので、楽しみましょう。
他人に抱かれたくらいで俺を離してくれるなら、最初から手なんて出してない…。
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