いらない

4/5
前へ
/63ページ
次へ
---愛されなくて、狂った兄弟。 最初は、雅之も被害者だったのかもしれない。それも大人の勝手で…。 けど、望んでいない暴力を与えられる苦しみを知っていながら、俺に平気でそれをするなら…彼も義理の父親達となんら変わらない。 「……なんで、そんな話、俺に…」 「強いて言うなら俺の優しさですかね?あの兄弟には関わらないほうがいいですよーって」 関わらないほうがいいのは自分が一番わかっている。 それが出来ないのだから仕方がないだろ。 「歩さんが一番かわいそうなの、分かってるんですが、俺じゃどうにもできないし…。あんな二人のゴタゴタに巻き込まれて、たまんないでしょ?」 「…なら、逃がしてよ…」 "あの人"とはもう戻れないと分かっているけど、このまま菊池の傍にいるくらいなら一人がマシだって、誰もが思うはずだ。 (なんで、こんな目に遭わなくちゃいけないんだよ…) うつむいていると、ずっと我慢していた感情がジワッと涙腺を熱くする。 「こんな地味なのに、なぜ執着されるでしょうか?やっぱりΩとするのは」 「―うるさいっ!」 睨みつけるよう彼をみると、驚いたような困惑したようなそぶりを見せた。 「まいったな…そんな目されると、別の意味で虐めたくなるんですけど」 「――、は!?」 「アナタは自分のこと、なんにも分かってない。そういう目…めっちゃイイなぁって、ずっと思ってました」 "ずっと"ってなんだよ。 会うのは初めてのはずなのに…。 じりじりと近寄ってくる彼に、恐怖から嫌な汗が背中を伝う。 「俺は、春日の命令で雅之さんの部屋に出入りしてる人間を、たまに監視してましたから。…歩さんの泣き顔だって、もう何回も見てますよ。 だから、この"役目"を皆んなから譲ってもらいました」 その目の色が狂気に満ちていて、ぞっと背筋が凍る。 ーーーー最悪だ。 俺は馬鹿だ。彼のいうことなんて、全部聞き流せばよかっただけなのに。 「ポジティブに考えてくださいよ。他の野郎にヤられたら、もう飽きられて執着されなくなるかもですよ?春日も大好きなお兄ちゃんと一緒にいられるようになって、歩さんも晴れて自由の身」 嬉々として笑っている田代だが 何もわかっちゃいない…。 「俺はβだから、妊娠率も低いと思いますので」 ――――優しくするので、楽しみましょう。 他人に抱かれたくらいで俺を離してくれるなら、最初から手なんて出してない…。
/63ページ

最初のコメントを投稿しよう!

189人が本棚に入れています
本棚に追加