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歩side
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部屋を出た時は誰もいなかった
春日にも 田代という男も誰もいなかった.
菊池は泣き疲れた俺を抱きかかえて、俺を自分の家に連れて帰った。
風呂場で何度も何度も体を洗われたあと、一緒の布団にくるまる。
「やっぱり、病院に…」
「……必要ない」
泣きも抵抗もしなかった俺は、期待外れだったのだろう。Ωらしく適当に振舞っていたら田代は、ちゃんとゴムをしてくれた。
そもそも俺の発情期は少し前に終わっているから大丈夫だというのに…
「納得、できない…」
「………」
けど…もし、田代という男の子供を孕んでしまったら、俺はどうすればいいんだろ
そうなれば、解放されるんだろうか
けど親には一体なんと説明しよう…
Ωだから仕方ない…なんて言われてしまうんだろうか…
「もし、あのβとさ……」
いや、聞いてどうする。
そう思って目を閉じようとしたとき
「俺の子に、すればいいよ…」
背後から聞こえた言葉に驚く。
いや、そもそも誰の子だろうと産むつもりはない
「そうしたら歩のこと噛んで、一生大事にする…だから、殺さないであげて」
何を勝手なことを…!
でも、真っ暗で表情は見えないけど
間違いなく、泣き声だった。
あのβからの話を聞いて同情したわけじゃない
菊池が俺にした仕打ちを絶対に許せる日はこないし、許したいとも思わない・・けど
「殴らない、ずっと愛してるって……浮気が嫌なら歯、全部抜いてもいい」
「なっ…」
そうすれば一生、誰も噛めなくなる。
他の番なんて作れなくなる…
「そんなことしたら、運命の番が現れたとき後悔するよ」
俺はお前の運命じゃない
本当は菊池だってそれを理解しているだろ?
だって、こんなに近くにいても
やっぱり何もかもが、遠いんだ…
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