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菊池から解放された――――。
あの日以降、一切連絡がない。
連絡がないのだから、こちらから連絡する必要もない。
体調でも悪いのだろうか…
いや、もしかすると新しいおもちゃを見つけたのかもしれない…
(なんで俺がこんなこと気にしなきゃいけないんだよ…)
それはたぶん、あの日の泣きそうな声と懇願だけが残っているから…。
「——————歩」
「……あっ」
廊下で話しかけた来たのは、菊池ではなく依岡さん
俺の――――、俺が好きだった人。
まさか、向こうから話しかけられるなんて
「久しぶり。元気してたか?」
「………はい。依岡さんも、元気そうで…」
「菊池のやつ最近、学校に来てないからさ。やっと今日話しかけられたわ」
何の用だろう…と思いたくても、そもそも体だけの関係。
ただそこに俺の恋慕があった…
「あの時はごめんな。菊池からの命令で仕方なかったんだ」
「はぁ…」
「最初は連絡しようとしてたんだけどーーー」
綺麗な、それらしい嘘だった。
菊池は俺が依岡さんと連絡してたところで嫉妬なんかしない。
スマホをチェックされたこともないし、誰かといたことを咎められた事もない。
ーーーあぁ、なんでだろう。
仕草が好きだった
誰にでも穏やかそうに見えて実はそうじゃないところも
俺は、発情期のせいでたびたび授業を抜ける。そうなれば授業は誰よりも遅れるから、いつも図書室で勉強していた
『俺でよければ教えるよ』
自分に劣等感しか抱かなかった俺は、人気者の彼に話しかけられたのが嬉しかった。
『第二性なんて関係ない。
君と仲良くしたいな』
そう笑いながら話しかけてくれた依岡さんに惹かれたし、憧れていた。
なのに今は―――、その熱を感じない。
「———なぁ、聞いてるか?」
「あ、す、すいませんっ。ちょっと考え事してて…」
「放課後、暇?って聞いたんだけど」
あぁ、これは誘いだ。
菊池が俺を解放したのは仲間の間でも知れ渡ったのだろうか。
あいつのお気に入りじゃなくなったんだから、また出来るって……
いま依岡さんに抱かれたい気持ちは…ない。
ないけど、また抱きしめてもらえたら、あの喜びの感情が沸き立つかもしれない…。
「いいですよ」
「OK.じゃ、俺ん家でな」
どうせ、菊池から呼び出しはないのだろうから―――。
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