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雅之side
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学校に行く気になれず、もう何日もサボってしまった。
だって歩に会えないなら学校に行く理由がない…
それに下手にすれ違いでもしたら、また酷いことをしてしまいそうだった
会いたい……。
でも俺がいたら、いつまでも歩は静かな学校生活が送れない。
眠れない…
悲しい、寂しい。
一人には慣れたはずなのに、まるで自分の半分がなくなってしまったみたいだ…
空白ーーーというより喪失感のほうが大きい。
無気力に床に寝そべっているとスマホが鳴った。
依岡ーーー。
久しぶりに見た名前。あの小物のくせして仲間内ではαを気取りデカい面するβか…。
歩を連想させるから、正直こいつのことを思い出すだけで腹が立つ。
LINEには、
『あのΩ、捨てた?』
歩だろっ、と怒りを覚える。
以前の俺なら気にもしなかっただろうけど、まだΩを発情しか取り柄のない性だとか馬鹿にしてるのか…
はぁ?捨てた?
捨てたつもりはない
同じクズでも俺はお前のように選んでもらえなかっただけだ
関係ないだろ、と適当なスタンプを送る。
『歩誘ってパーティーしようと思ってんだけど、どう?』
ーーーー…。
なんのパーティーだなんて聞かなくても分かる。
元々その計画をしてるとわかっていたから、お前の本性を周りに黙っといてやるから歩を寄越せと。言ってやった
もちろん、助けたつもりは微塵もない。
だって、どうせ酷い目に遭う予定だったんだ。それを俺がどう傷つけてもいいだろうと思っていた
無理やり体も奪って、閉じ込めて
やっとお前から引き剥がしたのに…
彼にあんなに想われて
あんなに大事にされておいて…
『どこに行けばいい?』
ーーーーまた、俺の知らないところで彼が傷ついて泣いてしまう。
* * * * *
(臭い…)
バイクを飛ばして指定された家に着くと勝手に扉を開けると、発情した知らないαと彼の発情フェロモンが家の中に充満していたーーーー。
胸糞悪くなる。
声もかけずに上がり込むと男共はどうにかして扉をこじ開けようと群がっている。
ーーーーそこか…
そこにいる、のか…。
「誰の断りがあって、歩に手ぇ出してんだ」
今度こそは間に合った…と嘲笑するも脳内は怒りで沸騰寸前である。
「ひっ……」
ひとりが怯えたような悲鳴を上げた。
(あぁ、こいつか…)
臭い。臭い…
周りがこのαの臭いをどう感じてるかなんて興味ない。
まるでドブのような悪臭だ。
こんな臭いを、歩につけようとしたのか…?
「殺すぞ…」
ギロリと見下すと男は顔を青くしたまま、その場から何も言わず逃げ去った。
「は、ちょ…おい!?」
その慌ただしさに残された二人は何が起こったのか分からない様子だが、そもそもαとは統率力に特化している。
獣が縄張り争いや、一匹の雌を奪い合うように
明確な力関係を示す、お互いのフェロモンには敏感であり、それ故に自分より格上の存在には畏怖する。
もちろん、実力行使に出る事もあるが
あの男は本能的に、菊池には勝てないと判断したのだろう―――
この程度の威圧に負けて逃げ出した時点で、
そいつはその程度の男だということだ。
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