戦乱に散る桜

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「敵は本能寺にあり!」  天正十年六月二日。満月の夜。 「信長様! 明智軍が攻め込んできました」  桜は複雑な面もちで信長の名を呼び、報告する。 「桜、後ろは任せたぞ」  こんな状況下でも笑っている信長。桜は、それを不思議に思いながらも俯いた。織田軍と明智軍の兵の数には、明らかに差がある。 「くそっ! 斬っても斬っても沸いてくる」  普段の桜なら笑っていただろう。だけど相手は明智軍。最後は光秀と戦うことになる。それを考えると桜の心は晴れなかった。  状況は悪化していくばかり。本能寺は焼かれ、炎が立ち上る。  どうして、どうしてこうなってしまったの? 優しかった光秀様は……。桜は涙が零れ落ちそうなのを必死に堪えた。  ただ一心不乱に刀を降り続ける。蝶のように美しく舞う。血のにおいが漂う。鈴の音が鳴り響く。チリンチリンと。  プツリ──…。ふとした刹那、腰につけている鈴が切り落とされた。
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