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「ありがとう、霞。じゃあそういう事で、よろしくな?」
私の願いが通じたのか、もう陸はすっかりいつもの顔に戻ってた。
「うん…あ、沙奈達に絶対聞かれると思うんだけど…どっちから告った事にするの?」
その辺、辻褄合わせておかないと面倒な事になりそう。
「ああ、そこはやっぱ男の俺からって事にしとこうよ?実際この話持ち掛けたのも俺なんだしさ」
「…うん、わかった…じゃあまた明日ね、バイバイ陸」
「…うん、じゃあな霞。また明日」
そう言って校舎に向かって歩き出す陸。
葉桜がカサカサと風に揺れていた。
季節はもうすぐ梅雨だけど、少しの息苦しさを感じるのは湿度が高いせいだけでは無いと思う。
大好きだった彼の後ろ姿を見えなくなるまで見送ると、それまで我慢していた涙が後から後から溢れてくる。
高校1年の梅雨入り間近のこの日、生まれて初めての恋人が出来た。
誰にも内緒の、偽りの恋人が。
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