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焦らない、急かさないと決めていたはずなのに。
『官能もひとつの芸術だよ』
クソ、あんな方向から煽ってくるなんて。
『奏の裸を、いやらしくない目で――』
そんなこと無理に決まってるだろう、あの好色爺め!
駄目だ、駄目だこのままじゃ。
今大事にしたい彼女との距離があるのに。
彼女の気持ちを一番に尊重すると決めたのに。
身体なんか見れなくていい。
何ならこのまま一生見れなくてもいいから。
「あの、奏さん」
気まずいままの中途半端に離れた距離が嫌だった。
さっきのことは忘れてください、と、誤魔化さずにはっきり口に出して言おうと思った。
――はずなのに。
「わ、分かってます!」
突然顔を上げた彼女の気迫に圧され、言葉を飲み込んだ。
分かってる。
そうか分かってくれている。
良かった、と、安堵したのも束の間のことだった。
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