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「疲れましたか? 冷えてしまいましたか? 今毛布を持ってきます、温かい飲み物も。お願いですから、僕が戻ってくる前に服を着てください」
薄闇は刻一刻と闇に近づいていく。
灯りを点けてあげた方が安心できるのかも知れないと思ったけれど、正直それだと僕の方が困る。
いや、困るというか――、うん、困る。
目のやり場に。
かなり、今さらだけど。
本音を言うなら、明るみの中であの姿を見てしまったら最後、歯止めが利かなくなりそうで怖かった。
なるべく時間をかけよう……。
キッチンでミルクを火にかける。
暗闇に慣れた目には灯りが眩しい。
脳裏に焼き付いた夕暮れに浮かぶ彼女の身体が鮮明に見えてきて、掻き消すように、冷蔵庫から冷えたミネラルウォーターを取り一気に呷る。
ミルクが温まるのを待って大きめのマグに移し、リビングのテーブルに用意した。
寝室から毛布を取ってアトリエに戻る。
「奏さん……」
もうアトリエは真っ暗だった。
彼女の位置を確認するために声をかける。
「晴臣さん」
声のする方へ、手探りで進んだ。
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