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近寄って、目が慣れてきてようやく気が付く。
彼女はブラウスを胸に抱いたままで、闇の中には未だに白い背中が浮き上がっていた。
慌てて持ってきた毛布で彼女を包み込む。
「どうしたんですか。動けませんか?」
腕の中で、彼女が首をこちらに回した。
ぞくりと何かが背筋を駆け上がる。
毛布で覆い切れなかった首筋のラインが、いっそう美しく闇に映えた。
「ごめんなさい、ちゃんと出来なくて」
「――何故、そんなことを。あなたは素晴らしいモデルだった」
むしろ僕が、彼女を気遣うことも忘れて描き続けてしまうくらいの。
「だって、後ろ姿ばっかり……私、ちゃんと、覚悟したのに」
「ちょ……待って。待ってください、奏さん」
後ろ姿だから。
横顔だから。
――きっと、だから描くことだけに集中出来たんだ。
「そんなに僕を乱したいんですか」
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