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「あなたがもし振り返っていたら、僕はその瞬間に画家でいられなくなったかもしれない」
「はる……」
彼女は怯えているのかもしれない。
素肌をなぞる感覚は初めての刺激だろうか。
力は完全に抜けて僕に身体を預けているのに、時おりびくりと震えるのがたまらなく愛おしい。
「あなたがいけないんですよ」
「――え……?」
だから、言ったのに。
「僕が戻ってくる前に、服を着ていなさいと」
腕の中で、彼女は身をよじった。
泣きそうな顔で、縋る様な目で僕を見る。
身体をくるんでいた毛布が肌蹴て、胸元までずり落ちそうになるのを必死で抑えながら。
そんなことをしても、鎖骨の下にふたつ並んだほくろはもう見えてしまった。
――だから、言ったのに。
もし、振り返ったら……と。
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