最初はそこそこ普通なり

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「改めまして……岸谷晴臣と申します。樫本さんからのご紹介で、CDのイラストをと。僕でよろしかったでしょうか」 不快感も動揺も顔には出さない。 出したら負けだ、と、どこか対抗意識を燃やしていた。 「よろしく頼むよ、晴臣君。君の絵は見させてもらったし、奏と亜矢の推薦だ。是非頼みたい」 敵は笑みを崩さないまま、右手を差し出してきた。 僕も、右手を出してそれに応える。 歩み寄って距離が縮まった隙に、彼は小さな声で言った。 「どうして奏じゃなくて亜矢の紹介なのか、気になるところだね」 にやりと、面白がるような笑い。 ぎょっとして身を引きかけたけれど、強く握られた手が離れない。 「こーら、いたぶるんじゃないわよ」 脇腹辺りを、彼の奥さんが肘で小突いた。 その胸には、まだ小さな赤ん坊が抱かれている。 そうだ、こどもが産まれたばかりのご夫婦じゃないか。 別に気にすることはない。 少しからかわれているだけだ、きっと。
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