黒猫

2/5
60人が本棚に入れています
本棚に追加
/12ページ
「ケホ…ケホ、ケホッ…」 今日も乾いた咳が出る。 最早、起こしている事すらも大儀になった身体を柱に預け、縁側で佇む。 ついこの前、淡い桜色に包まれた柔らかな景色を眺めていた筈なのに…… 少し寝込んでいる内に、その淡い色は消えて生気溢れる緑色に変わっていた。 誰もが理由もなく、その瑞々し色彩に心躍り、頬を撫でる爽やかな風に何かを期待したくなるような季節。 ──でも、 今の僕には…… 「緑が…眩しいな……」 何処か捻くれた、愚痴めいた言葉が衝いて出る。 やっぱり、死期が近付いて来ると……こんなモンでしょう。 今の姿は不本意極まりないんだから…… 一人で起き上がる事もままならない こんな身体で戦場に立つことなんて出来ないけど…… それでも……   カチャッ… 刀を身体から離す事が出来ないのは……未練なのだろう。
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!