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「ケホ…ケホ、ケホッ…」
今日も乾いた咳が出る。
最早、起こしている事すらも大儀になった身体を柱に預け、縁側で佇む。
ついこの前、淡い桜色に包まれた柔らかな景色を眺めていた筈なのに……
少し寝込んでいる内に、その淡い色は消えて生気溢れる緑色に変わっていた。
誰もが理由もなく、その瑞々し色彩に心躍り、頬を撫でる爽やかな風に何かを期待したくなるような季節。
──でも、
今の僕には……
「緑が…眩しいな……」
何処か捻くれた、愚痴めいた言葉が衝いて出る。
やっぱり、死期が近付いて来ると……こんなモンでしょう。
今の姿は不本意極まりないんだから……
一人で起き上がる事もままならない こんな身体で戦場に立つことなんて出来ないけど……
それでも……
カチャッ…
刀を身体から離す事が出来ないのは……未練なのだろう。
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