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でも、けんちゃんが瞳にすごく真剣な光を宿してじっと見つめてくるから、私が言いたかったことなんてすぐに真っ白になった。
「こんなことになるとは思ってなかったから、あの時はかっこつけちまったけど……違うんだよ。自分でやりたいように店やってるなんて嘘。俺は全然大した男じゃない」
「ど、どういうこと?」
「俺さ、妹と仲悪かったんだよ」
けんちゃんの妹さん。
十年前に病気で亡くなってしまったと一ヵ月前に聞いた。
その時は、けんちゃんが優しげな顔をして妹さんの話をするから、仲睦まじい兄妹だったのかなと思っていた。
でも、けんちゃんはその真逆だという。
いまいち信じられない私が困惑の色を浮かべると、けんちゃんは続きを話しだした。
「幼い頃はそうでもなかったけど、成長すると同時にうっとおしくなってきてさ。まぁ思春期だったんだよ。部活とか友達とか他に夢中になるものができて、あいつに構う時間もなくて。でも、向こうは俺に纏わりついてくるからけっこう冷たくしたりして、親にも怒られた」
「うそ……」
「いや、マジ」
けんちゃんは私の呟きに苦笑しながら首を横に振る。
けんちゃんは口悪いけど、私の面倒もよく見てくれて、何かと気にかけてくれて。
とてもじゃないけど、妹さんに冷たくしていたなんて想像つかない。
けんちゃんは雫が流れるフロントガラスの向こう側、街灯の光が届かない、冬の夜の深い闇をじっと見据える。
「それがいきなりあいつが中学に上がってすぐ病気になって、入院して。もう助からないって知った時、どうしたらいいのかわからなかった。だって今まで、冷たくあしらってきといて、死ぬから優しくするなんてできなかった。それじゃあ、もうあいつの死を受け入れてるみたいじゃねぇかって。俺は認めたくなかったんだ。それで結局、最後までろくな言葉をかけてやれなかった」
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