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足音とともにダイニングへと顔を見せたのはお兄ちゃんだった。
仕事から帰ってきたお兄ちゃんを一目見た瞬間、真琴さんは嬉々として顔を綻ばせながらイスから立ち上がる。
「おかえりなさいっ」
「ただいま」
お兄ちゃんの元まで小走りで行って抱きつく真琴さんとそれを抱き締めるお兄ちゃん。
傍から見たら、すごく愛しあっている夫婦。
……でも、何か引っ掛かる。
さっきの真琴さん、何かに怯えているようだった。
そして、今もお兄ちゃんにひしっとしがみつくように抱きついて、私が見ていようと傍を離れようとしない。
前までどんな感じだった?
もちろん、二人はずっと愛し合っている。
でも、他人の前でいちゃつくようなことはなかった。
もっと、お互いを信じあっているような、確固たる絆で結ばれているような。
こんなに依存するように甘える感じじゃなかったのに。
今にも壊れてしまいそうな危ういものを見ているような......
「彩夏、悪いな。来てもらって」
「……ううん。いいの」
真琴さんを抱き締めながら私へと顔を向けるお兄ちゃんに私は取り繕うように笑顔を作る。
疑問を口にできるほど、まだ確信が持てたわけじゃない。
何より、愛し合っている二人に水を差すみたいで躊躇われた。
結局、その場では私は何も言えずにその後二人のマンションを後にした。
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