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「何それ?」
「お兄ちゃんの許可がないと外に出られないのかも……」
「はぁ?」
夏月の顔が厳しく顰められる。
私は考えなしに思い当たったことを口走ったことを後悔して、慌てて取り繕った。
「まだわからないよ!私の勘違いかもしれないし、つわりがひどいから安静にしているだけなのかもしれないけど……」
だけど、あれは異常だ。
二人の間に何かが起こっている。
それだけは確信できた。
夏月はしばらく黙ったままだったけど、
「そう……」
とだけ呟く。
その顔がいつもの夏月じゃないみたいで。
何か覚悟を決めたような意志の強い瞳にはっと息を飲む。
「な、なつ……」
「ごちそうさま」
私が問う前に夏月は残っているケーキを口を開けて詰め込んで手を合わせた。
「これ、ちょうどいい甘さで男でもいけると思う」
「え?あ、う、うん……」
感想を言いながら立ち上がって食器を流し台に持っていく。
その姿はもうあの目が冴えるような鋭い表情ではなくて、いつもの夏月だったからさっきのは見間違えかと思った。
それが甘かった。
私はこの時気づいてなかったんだ。
夏月のまっすぐな目がどこを見ていたのか。
何を思っていたのか。
後日、事件が起こってから全部知ることになる。
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