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なんだろ、緒方さんと何かあったのかな?
首を傾げながら受話器を眺めるけど、わかるわけもなくて。
「春奈さんですか?」
「うん、なんか用事で今日は来れないみたい」
私の言葉を受けて原田さんは「めずらしい」と驚く。
確かに責任感の強いお姉ちゃんにしてはめずらしい。
店を閉めると決めたけれど、だからといって一切の手抜きはしない人だ。
私たちが二人で首を捻っていると、ちょうどお客様が来店してそこで会話も終わった。
それからずっと働きづめ。
お姉ちゃんが不在で残念がるお客さんもいたけど、土曜日ともあって平日仕事帰りに立ち寄る人が多いこの店を何とかお姉ちゃんなしでもこなせた。
だけど、料理をして運んで接客して。
店の状況を把握しながら全てを完璧にするのはかなり疲れる。
小さい店だからってお姉ちゃんを尊敬する。
原田さんと店を閉めて、寒い空気の中帰る足取りも重くなる。
あー、早く寝たい。
下がってくる瞼をパチパチさせながら玄関のドアを捻るとノブが回ったから、夏月がいるようだ。
でも、ドアを開けた先は暗くて、暖房もついてなくて。
おかしいと思った私の背から差し込む灯りが玄関で座り込む夏月を照らしだした時、驚きで立ちすくんだ。
「な、夏月?」
こんなところで座り込んでどうしたのか。
酒でも飲んでよっぱらったのかと心配になって屈むと、夏月の顔に血がついていてぎょっとする。
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