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「どうしたの!?その怪我!」
「……兄貴とやり合ってきた」
そうしゃべる口の端が痛々しく切れていて、しゃべるのもぎこちない。
だけど、それよりも気になったのは夏月の身体の震えだ。
膝を抱えるようにして座り込んだ身体がガクガクと震えていて、それが寒さのせいではないことくらいわかった。
「夏月!」
揺れる瞳でどこを見ているのか。
尋常じゃない夏月の様子に私は少しでも落ち着かせようと、両手を夏月の手と重ねるとぎゅっと握った。
「そしたら、真琴さん、倒れちゃって……」
身体とともに震える唇から告げられた内容に芯から寒気がきた。
真琴さんが倒れた。
夏月の今の精神状態から最悪の結末が頭を過ぎる。
私自身も震えが来てしまったけど、戦慄く口を何とか動かした。
「そ、それで……?」
「病院に運んだら、大事ないって......でも、今日は病院で安静にして......姉貴たちが付き添ってると思う」
お姉ちゃんが焦っていたのはこれだったのだ。
そこで全てのピースが嵌った。
夏月はあの時、決めていたんだ。
真琴さんを解放しようと。
そのためにお兄ちゃんとぶつかる覚悟で臨んだんだ。
それに気づいていれば。
いや、そもそも私が何の考えもなしに夏月に話してしまったことが駄目だったんだ。
せめて、私がその場に同席していれば、殴り合いなんかにならずに、この結果を変えられていたかもしれない。
「どうしよう、俺......また余計なことして……傷つけた」
「夏月……」
「救えるなんて思ってなかった。でも、少しでも助けたかったんだ」
夏月が私の肩に顔を寄せる。
声音が弱弱しくて、悲痛で。
小さな子供みたいに泣く夏月を私は抱き締めて背中を擦ってやることしかできなかった。
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