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今まで育ててもらって、最後の最後で親不孝をしていると思う。
身体が弱かった私はみんなの庇護を受けるお返しじゃないけど、せめて期待に応えられるように生きてきた。
でも、もうそれができないくらい夢中になれることを見つけたから。
私はもう弱いだけの、守られるだけの子供じゃない。
自分の居場所は自分で作れるはず。
「わかった。好きなようにやりなさい」
「え?」
父の声が静かに降ってきて、私は頭を上げる。
き、聞き間違いじゃないよね?
あまりにあっさりと承諾を得られて、まず第一に自分の耳を疑ってしまう。
「ほ、本当?」
「完全にいいとは言い切れない。商売っていうのは甘くはないからな。だが、あれだけ暴れて飛び出していくくらいだから相当の覚悟があるんだろう」
「雪弥にも春奈にも言われたのよ。『もう彩夏も子供じゃないんだから、好きなようにさせてやれ』って。『自分たちと同じような失敗をしてほしくない』って」
母が微笑みながら言った言葉に私は目を丸くする。
お兄ちゃんとお姉ちゃんが?
私の知らないうちに両親を説得してくれていたの?
「あなたは兄弟の中で一番小さくてすぐ体調を崩していたからどうしても心配だったの。でも、それがかえって窮屈そうだったのも薄々わかっていたわ。それをいつまでも気づかないふりをして手元に置いておいたのは私たちのエゴね」
そう言って母は席を立つと、リビングから出ていった。
でも、ものの数十秒で戻ってくる。
その手には通帳と印鑑が握られていた。
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